射出成形オペレーターの知識蔵

射出成形オペレーターの知識蔵金型取付ボルト・ネジ穴の悩み>ダイスによるボルトの修復
 ねじ山を損傷したボルトを無理に使用するとねじ穴側を損傷させる原因となります。ネジ山に錆や変形、欠損によりネジ穴に入れると抵抗が大きく、着座するまで手回しにより締め込みが出来ないボルトはダイスを使用してネジ山の修復を行います。
ボルトの損傷状況と修復の可否
・ねじ山がせん断したボルト
 ボルトのねじ山の凸部が千切れて欠損したものです。ねじ山となる部分が欠損しているため、修復は困難です。
 雌ねじ(ねじ穴側)や、雄ねじ(ボルト側)に十分な長さ(深さ)があれば、せん断した部分を無いものと考え、深くネジを入れることで再利用できます。
・ねじ山の変形(せん断の一歩手前)
 ねじ山が負荷に負けて変形(凸部が寝ている)しています。
 ダイスを使用すると変形部を削り取るため、ダイスでの修復が難しい状態です。
 ねじ山修正機を使用することで変形したネジ山を修正(凸部を起こす)した後、ダイスで更に修正することである程度修復することが出来ます。しかし、ねじ山のダメージが大きいため、多くの場合で元の状態にまでは修復できません。
・ねじ山の部分的な欠け
 ねじ山の一部が部分的に折損しています。見た目に対した損傷でなくても、折損部周辺に小さな突起等の変形ができることでネジの摩擦抵抗が大きく、使用するとねじ穴(雌ねじ)のねじ山を損傷する原因となります。ダイスで整えることで修復することが出来ます。
・ねじ山への金属片の付着・錆の発生
 ネジ穴(雌ねじ)からせん断により剥がれた金属片。摩耗により発生した鉄粉。錆び。その他ゴミが付着します。
 ダイスで付着物や錆を清掃することで修復することが出来ます。

ねじ山状態確認方法
 ボルトのねじ山の状態は、正常なねじ山を持つ雌ねじ(ナット等)に入れることで確認することが出来ます。ねじ山が正常であれば手回しでねじ込むことができます。
 手回しで入らない(回らない)箇所の有無でねじ山の状態を確認することが出来ます。

必要資材
・ダイス
 修復したボルトのサイズとネジピッチに応じたダイスを使用します。
・ダイスハンドル
 ダイスを固定して力を加える時に使用します。ねじ山の掃除のみであれば不要です。
・ピッチゲージ
 判別し難いねじ山のピッチ(間隔)を判別する時に使用します。ミリ用インチ用あり、各800円程から市販されています。
・メガネレンチ、六角スパナ
 ボルトをダイスに締め込む際に使用します。
・削り油
 ダイスでネジを修復する際、クレ5-56やオイル、グリス等の潤滑作用のある油を使用します。
・防錆油
 修復したボルトが錆びないように使用します。直にボルトを使用する時は不要です。無ければクレ5-56等の潤滑作用のある油で代用できますが、潤滑作業があると使用する際に締め込み過ぎるため注意が必要です。
・パーツクリーナー
 削り油の脱脂や削り粉の清掃に使用します。金型洗浄剤でも代用できます。
・金属ブラシ
 鉄粉や錆の付着が軽度であり、ダイスを使用する程でもない時のボルトの清掃に使用します。

ダイスによるボルトの修復

  • ねじ山がせん断したボルト
  • 損傷状況:ねじ山がせん断したボルト

     ボルト先端部分がせん断により欠損したボルトです。ねじ山の凸部が無くなっています。(シルバーに写る部分がせん断した箇所)
     修復は困難です。

  • ねじ山の変形
  • 損傷状況:ねじ山の変形

     写真の右半分ねじ山が凸部が変形しています。
     修復にはねじ山修正機が必要となります。
     修復するには手間が多く、ある程度までしか修復できません。
  • ねじ山の部分的な欠け
  • 損傷状況:ねじ山の部分的な欠け

     ねじ山凸部(赤〇の箇所)が欠けています。実際のボルトで見ると見落とすような小さな欠けですが、ネジ穴に入れると手回しが出来ない大きな抵抗原因となります。
  • ねじ山の金属片の付着
  • 損傷状況:ねじ山の金属片の付着

     ネジ穴(雌ねじ)からの金属片が付着したボルトです。鉄粉が付着した程度でもネジ穴に入れるとねじ山に噛み込むため、ねじ山を損傷させる原因となります。
     ダイスで容易に修復することが出来ます。
  • ボルトの修復資材
  • ・ボルトの修復資材

    ・ダイス
     欠損や変形がある場合、力を加えるためにダイスハンドルも必要となります。
    ・修復するボルト
     ねじ山の欠損により修復を行うボルト。
    ・クレ5-56
     ダイスを使用する際の削り油・防錆油として使用します。グリスやオイルスプレーでも使用できます。
  • ダイスの刻印と裏表
  • ・ダイスの刻印と裏表

     刻印16mmがボルトサイズ。2.0がネジピッチを表しています。ネジピッチが不明なボルトでは、ピッチゲージを使用します。
     刻印のある面。ダイスのねじ山に呼び口(ネジの凹部が浅い)がある面が表です。
  • ダイスの使用
  • ・ダイスの使用

     ボルトをダイスに垂直差しダイス・ボルト其々のねじ山が噛むように締め込みます。
     ボルトが斜めに入らないよう注意します。
  • ねじ山の修復と清掃
  • ・ねじ山の修復と清掃

     ボルトに注油し、ダイスを抑えてボルトを締め込みます。
     ねじ山の掃除程度であれば、素手ダイスを持ち作業できます。欠損などであれば抵抗が大きいため、ダイスハンドルやレンチが必要となります。
  • 修復したねじ山の確認
  • ・修復したねじ山の確認

     正常にボルトのねじ山が修復されたかは、新品のナット等に通して抵抗なく回れば修復されています。
     写真では成形機付属の新品クランプのネジ穴で確認しています。
  • 鉄粉等の清掃
  • ・鉄粉等の清掃

     修復作業で発生した鉄粉を除去します。写真ではパーツクリーナーで掃除していますが、エアーなどでも除去出来ます。
  • ボルトの錆止め
  • ・ボルトの錆止め

     修復したボルトは表面の防錆(メッキ)が剥がれているため、錆びやすい状態です。直に使用しない場合は防錆油を吹きかけます。
     写真では金型用防錆剤を使用しています。
  • ダイスハンドル
  • ・ダイスハンドル

     ダイスの持ち手となるダイスハンドルです。ねじ山の欠損が大きい等、修復作業で抵抗が大きい時、ダイスが共回りしないよう抑えるために使用します。

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