- 射出成形オペレーターの知識蔵>金型グリスの悩み>金型グリスのメンテナンス
- グリスは劣化や異物の混入により変質が起きると、十分な性能を発揮できないため動作抵抗の増大や摩耗増加が発生します。これを予防するため定期的にグリスの状態を確認し、グリスの追加や塗り直し等のメンテナンスを実施してその性能を維持することが必要となります。
グリスの追加となる原因
グリスの気化
グリスは主成分が油であるため、水と比べて非常に少ないものの、気化により徐々に減少します。
内部への流入(グリスの移動)
ガイド軸やスライド部に塗られたグリスは、ガイド軸の軸受部。ベアリング内部等に流入(グリスが馴染む)することで、表面上のグリスが減少します。
外部へ押し出し
グリスは動作により外側への押し出されます。押し出されはみ出たグリスは、単にガイド軸等のグリスが満たされて押し出されたわけではなく、内部への流入が不足していても押し出されが発生します。
特にグリスの塗り直しをした直後などでは、押し出されたグリスを拭き取り、ガイド軸に再度グリスを追加することが必要となります。
グリスの塗り直しとなる原因
グリスの変質
グリスは様々な原因により劣化・変質して本来の性能を失います。劣化・変質したグリスは、全て除去して新しく塗り直す作業が必要となります。
グリスの劣化・変質の原因や判断の仕方は、「グリスの変色原因と劣化・変質 」へ
グリスの変更
グリスは種類により特徴が異なるため、性能不足等により種類の変更が必要となる場合があります。異なる種類のグリスの混入は、グリスの変質による性能低下を招きます。このため、グリス変更時には変更前のグリスを全て除去し、変更後のグリスを塗り直すことが必要となります。
グリスの定期メンテナンス
安定した可動部のグリスでは、実際に稼働させた時のグリスの耐久期間もほぼ安定します。
分解が必要な内部など、外部から容易に判断出来ない複雑のメンテナンスでは、定まった期間(定期)にグリスを塗り直しを行う定期メンテナンスにより安定した動作を維持することが出来ます。
グリスの拭き取り・除去方法
ウエスによる乾拭き
乾いた布ウエス等で拭き取り清掃を行います。
・利点
ガイド軸等に一定の油分が残るため、塗り直し後の塗り斑による油膜切れによる錆や金属齧りを予防することが出来ます。
・欠点
古いグリスが一定量残るため、変質したグリスの塗り替え。異種グリスへの変更のための塗り替えとしての拭き取りに不向きです。
アルコールによる拭き取り
工業用アルコールを付けたウエス等により拭き取り清掃を行います。
・利点
固着したグリスを含めグリスの油分をスッキリ除去することができ、作業者に害が少なく使用することが出来ます。
・欠点
シンナーを始め有機溶剤程の油分除去性能はありません。
金属表面を油膜の殆ど除去するため、清掃後のグリス塗り直しでは斑なく塗る必要があります。
シンナーによる乾拭き
有機溶剤であるシンナーを付けたウエス等により拭き取り清掃を行います。
・利点
固着したグリスを含めグリスの油分を強い分解能力でスッキリ除去することができます。
・欠点
作業者にとって害が大きいため取扱いに注意が必要です。
金属表面を油膜の完全に除去するため、清掃後のグリス塗り直しでは斑なく塗る必要があります。
シンナーを使用した箇所の近くにベアリング等を使用した軸受部やスライド部等の複雑構造があると内部まで流入し油分が分解されます。
パーツクリーナー、金型洗浄剤による除去
油分を分解除去する洗浄スプレーを使用して洗い流すことでグリスを除去を行います。
・利点
多量に付着し拭き取りが大変な量のグリス付着でも洗い落とすことができます。
・欠点
液状の洗浄剤とガス圧で吹き付けるため、清掃箇所の近くにベアリング等を使用した軸受部やスライド部等の複雑構造があると内部まで流入し油分が分解されます。
金属表面を油膜の完全に除去するため、清掃後のグリス塗り直しでは斑なく塗る必要があります。
金型グリスのメンテナンス
-
・ガイド軸塗られたフッ素グリス
成形を長期間停止できない金型のため、ガイド軸にフッ素グリスが使用されています。
グリスが変質により硬化し、柔軟性が失われ一部は粉状になっています。 -
・グリスの拭き取り
アルコールを付けたウエスにより変質したグリスを拭き取り清掃します。
ストリッパープレートの中のガイド軸もプレートを前後させて可能な範囲で清掃を行います。 -
・黒く汚れたグリス
ガイド軸に塗られていた時は白く見えましたが、樹脂ガスの混入や摩耗粉により黒く汚れています。
-
・清掃後のガイド軸
グリスを除去したガイド軸です。グリスによる油膜が除去され金属部が剥き出しになっています。
-
・新しいフッ素グリス
塗り直す新しいフッ素グリスです。
使用時に古く変質したグリスが混じらないよう使用します。 -
・ガイド軸へのグリス塗布
フッ素グリスを指で満遍なくガイド軸に塗布します。特に見えにくい裏側まで斑なく塗れるよう注意が必要です。
-
・塗り直しをしたガイド軸
新しいフッ素グリスにより保護されたガイド軸です。
摩耗粉の混入や、硬質化等の変質したグリスが一掃されました。 -
・テーパーピンの清掃
金型のテーパーピンおねじ部です。
テーパーピンは、負荷が大きくグリスが焼き付きし易い箇所のため、洗浄力の大きいシンナーを使用して清掃します。 -
・テーパーピンめねじ部の清掃
金型のテーパーピンめねじ部です。
おねじ同様、かかる負荷が大きくグリスが焼き付きし易い箇所のため、洗浄力の大きいシンナーを使用して清掃します。 -
・突き出しピン
製品を突き出すピンです。
製品いグリスが付着しないよう、擦り合わせがきつくなった奥の部分を中心にグリスの塗り直しを行います。
グリスが焼き付く箇所について
グリスが焼き付いた個所はシンナー等を使用しても除去することが出来ません。焼き付いたグリスは研磨剤を使用することで除去することが出来ます。また、焼き付きを繰り返し発生する場合には原因を確認して対策を講じることで焼き付きを予防することができます。次ページ:グリスの焼き付き防止対策